アセスメント
- 嘔吐の原因特定するための質問(子どもが不安や苦痛を伴っていることが多いので穏やかに簡潔に声をかける)
- 食事: 直近の食事内容、食事のタイミング、他の子どもたちの状態を確認。(例:野外での炊飯で、ジャガイモのゆで方が堅かったとか、みんなで得競い合うように「おかわり」をしてつい食べ過ぎた!)
- 活動内容: 激しい運動や過度の活動が嘔吐を引き起こす場合がある。激しい活動をしていなかったか確認。
- 環境要因: 暑さ、寒さ、高度変化、車酔いなどの外部環境要因を確認。
- 病歴: 既往歴、アレルギー、最近の病気や風邪などの症状を確認。
- 心理的要因: ストレスや不安が嘔吐の原因となることがある。(身体的異常がないことを確認してから、心理的な要因を考慮する)
- 症状の観察
- 嘔吐の頻度と量: 嘔吐が一回なのか複数回なのか、出た内容物の量。
- 嘔吐物の性状: 血液や胆汁が混じっていないか確認。
- 他の症状: 発熱、下痢、腹痛、頭痛など他の症状があるかどうか。
- 意識レベル: 子どもの意識状態や反応。
- バイタルサインの測定:
- 体温: 発熱の有無を確認。
- 脈拍、呼吸数など、野外で物がなくても確認できることを行う。
- 脱水状態: 皮膚の状態、口渇、尿量の減少などを確認。
対応
- 休息と安静:
- 子どもを安全な場所に移動させ、安静にさせる。
- 嘔吐後は頭を少し高くして寝かせ、気道を確保。
- 水分補給:
- 嘔吐後の脱水を防ぐために少量ずつの水分を与える。無理に食事を勧めない。
- 電解質を含む飲料(スポーツドリンクなど)が望ましい。
- 医療機関への連絡:
- 持続する嘔吐や重篤な症状(高熱、血便、意識障害など)が見られる場合は、速やかに医療機関に連絡。
- 必要に応じて救急車を手配。
- 観察:
- 嘔吐が続くか、他の症状が現れないかを継続的に観察。
- 他の子どもたちの状態も確認し、集団発生の可能性を考慮。
合併症
- 脱水症:嘔吐により体内の水分が失われるため、特に注意が必要。皮膚の乾燥がないか。
- 電解質異常:嘔吐によりナトリウムやカリウムなどの電解質が失われることで、電解質異常になる可能性がある。(意識がもうろうとしている。不整脈など)
- 誤嚥性肺炎:嘔吐物を誤って気道に吸い込んでしまうと、誤嚥性肺炎を引き起こすリスクがある。仰向けのままにしない。楽な姿勢(横向きに寝る、前かがみに座るなど)
- 代謝性アルカローシス:長時間の嘔吐により胃酸が失われ、血液のpHバランスが崩れることがある。(野外では血液検査なの結果を得ることができないので、けいれんや不整脈などの症状から判断)
野外活動中の子どもにどんな病気が考えられるか?
1. 急性胃腸炎
- 原因: ウイルス(ノロウイルス、ロタウイルスなどが疑われる場合は、感染拡大をしないための処置を行う。)、細菌、寄生虫など。
- 特徴: 嘔吐に加えて、下痢、発熱、腹痛が見られることが多い。
2. 食物アレルギー
- 原因: 特定の食物(乳製品、卵、ナッツなど)に対するアレルギー反応。
- 特徴: 嘔吐に加えて、じんましん、呼吸困難、腹痛などのアレルギー症状。
3. 自家中毒(周期性嘔吐症)
- 原因: ストレスや疲労、感染症などが引き金となることが多い。
- 特徴: 繰り返し起こる重度の嘔吐発作。数時間から数日続き、間隔を置いて再発する。
4. 腸重積
- 原因: 腸の一部が他の部分に嵌り込むことにより発生。
- 特徴: 突然の激しい腹痛、嘔吐、血便。緊急の医療処置が必要。
ほかにも、髄膜炎、脳腫瘍、食道逆流症(GERD)、ピロリ菌感染症、糖尿病ケトアシドーシス(DKA)などあります。前兆も含め、あらゆる可能性を考え、医療機関と連携をとることが必要です。
エピソード
海の近くのキャンプ場。潮風が心地よい夕暮れとなりました。そんな中、子どもたちはみんなでカレーライスをつくり、おいしくいただきました。
ところが、4年生の唯人くん(仮名)は急に顔色が悪くなり、吐いてしまいました。キャンプボランティアのお兄さんは、吐物の処理を速やかに終え、キャンプナースに報告を入れました。
キャンプナースはすぐに唯人くんのところに行き、「唯人くん、まだ吐きそう?」と訊くと首を横に振りました。「どこか痛いところある?」と訊くと、唯人くんは顔色こそ悪いものの「うん、大丈夫」と答えました。「下痢はない?」と訊くと「ない」と言いながら首を横に振りました。受け答えの様子は、しっかりとしていました。
「じゃあ、一回、お口の中をきれいにしようか。歩くことできる?」と訊くと、唯人くんは「うん」と言って、キャンプナースと水場に行って、手洗いとうがいをしたり、顔を洗ったりしました。唯人くんはさっぱりしたと笑顔を見せました。顔は日焼けしていますが、熱のある赤さはなく、風が吹いているせいか、体が火照ている感じもありませんでした。
「なにか、唯人くんのからだでいつもと違うところある?」と訊くと、「うーん、カレーライスいっぱい食べすぎた。比呂(仮名)と哲(仮名)が三回おかわりしたから、俺も三回おかわりした(苦笑)」「みんな3回おかわりしたんだね!」「うん。ジャガイモが、大きいのと小さいのがあって、最後はジャガイモの大きいのがきつかった…」と唯人くんは思い出しながら話してくれました。
「そうなんだ。じゃあ、ゲロしたときジャガイモがいっぱい出てきたのかな?」と訊くと、唯人くんはキャンプナースの顔を見ながら、ちょっと笑い「うん」とうなずき、「今は、すっきりしてる」と言い、手渡した水を一口飲んで「うん、吐きそうにならない」と言いました。
「今日はみんなで海辺で走り回ったり、水遊びして楽しかったけど、かなり疲れたな~」と唯人くんは続けました。「そうか。疲れてたんだね~。お水もいっぱい飲んでくれてたしね。今日は早く寝ようね」と言うと、うなずきながら「もう、遊んでくる」と言い唯人くんはかけだしそうになりました。「ちょ、ちょっと待って!唯人くんはアレルギーはなかったのは知ってるんだけど、最近、風邪をひいたりしたことあった?病院に行ったこととか?」「ないよ!もう大丈夫!ジャガイモ食いすぎただけ!」と言って子どもたちの群れの中に走っていきました。
唯人くんは、キャンプは初めてではなく、お友達ともトラブルを起こすことなく過ごしていました。その後、みんなで海ほたるを見に行き、お風呂に入って、就寝時間を迎えました。唯人くんもすべてのスケジュールに参加できました。夜もぐっすり眠ることができたようです。
子どもの嘔吐、今回は本当に「食べ過ぎた」ということでしたが、はじめは熱中症を疑いました。しかし、受け答えがはっきりしており、自分で歩き、口をゆすいだりできていたので、様子をみることにしました。思い込んでしまうと、ほかの情報収集ができなくなってしまうので、必ず、全身の観察、経過の観察は不可欠です。
児玉善子
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