1. 状況を冷静に把握する
まず、けんかの原因や状況を冷静に観察。安全を確保し、暴力行為が続いている場合は速やかに止める。容赦なく暴力をふるい合っていることもあり、おとなひとりで無理な時は複数人で対応する。
2. 両者を引き離す
けんかをしている子どもたちを引き離し、落ち着かせる。このとき、できるだけ冷静な声で話しかけ、感情を鎮めるよう心がける。仲裁をする大人が、大声になると子どもたちが余計に興奮する。まら、追い詰めたり、どちらが悪いのかと問い詰めたりしない。
3. 各々の話を聞く
両者の意見を公平に聞く。一人ずつ話を聞き、お互いの気持ちや意見を理解するよう時間を設ける。このとき、非難することなく、中立の立場で接する。(下記のエピソードを参照してください)
4. 問題の解決策を一緒に考える
けんかの原因や解決策について話し合い、双方が納得できる解決策を一緒に考える。ここで重要なのは、子どもたち自身が解決策を見つけるプロセスをサポートすること。
5. 必要ならフォローアップ
場合によっては、けんかの後にフォローアップをする。喧嘩することが悪いことではなく、暴力や言葉で人を気付つけ合うよりも、互いに違う意見として「まず最後まで聴く」ことを習慣化できたほうが「いい仲間になる」と伝える。
注意点
- けんかが激しい場合や、怪我のリスクがある場合は、すぐに介入して安全を確保することが最優先。
- けんかの原因が複雑なこともある。喧嘩をしている二人が集団の氷山の一角であることもある。
前・麹町中学校校長の工藤勇一先生は、学力格差の解消には「やらされる学習」ではなく、自律的な学習意欲の育成が重要だと述べています。そのために周囲の大人が使うべき3つの言葉を紹介しています。「どうした?」と現状を聞くことで子どもの状況を理解し、「このあとはどうしたい?」と意思確認をすることで主体性を促し、最後に「私は何をしたらいい?」と問いかけて支援の姿勢を示すと述べています。(参考:子どもが主体的に動くようになる「3つの言葉」横浜創英・工藤勇一校長インタビュー)
野外活動は、自律的な学習意欲の育成が重要です。そんな中で、仲間同士のけんかもあります。
エピソード
野外活動中に、小学5年生の蓮くん(仮名)と小学6年生の悠斗くん(仮名)が口論を始め、ついには取っ組み合いのけんかに発展しそうになりました。キャンプナースがその場にいたので、2人を落ち着かせるために介入しました。
キャンプナースはまず、蓮くんと悠斗くんに「どうしたん?」と静かに尋ねました。蓮くんは怒りに任せて「悠斗がずっと俺のことをからかってくるねん!」と叫び、悠斗くんも「ちがう!蓮がわざと俺の作ったものを壊してん!5年のクセに!」と反論しました。キャンプナースは冷静に両方の話を聞きました。
次に、キャンプナースは「このあとはどうしたい?」と2人に問いかけました。蓮くんは驚いた表情を見せましたが、少し考えて「もうけんかしたくないけど、悠斗が謝ってくれないと気が済まない」と答えました。悠斗くんも、最初は黙っていましたが「俺もけんかはしたくない。でも、蓮が先に謝って欲しい」と言いました。
キャンプナースはうんうんと二人の話を聴いたうえで、「私、何か手伝えることある?」と2人に聞きました。この質問に、蓮くんは「わからん」と答え、悠斗くんも「蓮に先に謝ってくれる方法を教えて欲しい」と言いました。しばらく3人で沈黙していました。蓮くんが「俺が先に謝ったらええんやろ」と不機嫌そうな物言いで「ごめん」といってぴょこんと頭を下げました。すると悠斗くんも「僕もごめん」と言いました。
キャンプナースは、三人でお互いの目を見合って、ニコッと笑って見せると二人も照れくさそうに下を向いてしまいました。悠斗くんは居心地が悪くなったかのように「蓮、遊びに行こ!」と言って二人で走り出していきました。今回、キャンプナースはこれ以上の介入しませんでした。本質の部分に触れていないかもしれません。しかし、誰かに何かを言わされるというよりも、自分たちで問題を解決していくための時間が大切な時もあると思いました。
児玉善子
集団を巻き込むべきか、当事者同士の問題として解決すべきか?
集団を巻き込むべき状況
- 問題が全体に影響する場合
- けんかの原因がグループ全体に関連している場合、例えば活動内容やグループのルールに関するものであれば、全員で話し合う方が良い。
- グループの雰囲気が悪化する場合
- けんかが他の子どもたちにも悪影響を与えている場合や、グループ全体の雰囲気が悪くなっている場合は、全体での対話が必要。
- 教育的な価値がある場合
- けんかの解決プロセスを他の子どもたちに学ばせることで、全体のコミュニケーション能力や対立解決スキルを向上させることができる場合。
当事者同士の問題として解決すべき状況
- プライバシーの問題
- けんかの原因が個人的なものであり、プライバシーを尊重すべき場合は、当事者同士で解決する方が適切。
- 解決が迅速に可能な場合
- けんかが小さな誤解や一時的な感情のもつれによるもので、迅速に解決できる場合は、当事者同士での解決が効果的。
- 他の子どもたちが関与していない場合
- けんかに他の子どもたちが関わっておらず、当事者同士の問題として処理できる場合。
当事者同士の問題として解決すべきプライバシーの問題の具体的な事例
事例1: 個人的な秘密の漏洩
ある子どもが、他の子どもの個人的な秘密を漏らしてしまった場合。例えば、ある子どもが親に離婚の危機があることを友達に話していたが、その友達が他の子どもたちにその情報を広めてしまい、けんかが発生した。
事例2: 個人的なアイテムの盗難
ある子どもの大切な個人的アイテム(例えば、日記や個人的な価値のあるもの)が他の子どもに盗まれたり、壊されたりした場合。このような場合は、個人的な問題として扱い、当事者同士での話し合いと解決が適切。
事例3: 感情的なトラブル
ある子どもが他の子どもに対して個人的な感情的なトラブル(例えば、友人関係のもつれや恋愛感情のトラブル)を抱えている場合。この場合、他の子どもたちを巻き込むと状況がさらに複雑になるため、当事者同士で解決するのが適切。
事例4: 健康に関する問題
ある子どもが特定の健康問題や障害を抱えており、それが原因でけんかが発生した場合。この場合は、プライバシーを守りながら、当事者同士での理解と解決が適切。ただし、みんなで障害の特性を理解したもらった方が協力を得られる場合はその限りではない。
個人的な問題を全体で話し合うことには慎重さが求められる。その一方で、適切に配慮すればいくつかのメリットもある。
- 教育的な価値
- メリット: 他の子どもたちが問題解決のプロセスを学ぶ機会になる。対立や問題にどう対処するか、実際の事例を通じて学ぶことができる。
- 注意点: 個々のプライバシーを守りつつ、今後にも活用できるような言葉を引き出すように配慮する(教訓化)。
- コミュニティの一体感
- メリット: グループ全体で問題解決に取り組むことで、チームワークや連帯感が強まる。
- 注意点: 問題が個人にフォーカスしすぎないようにし、全体の協力と支援を強調する。
- 共通のルールや価値観の確認
- メリット: グループ全体でルールや価値観を再確認し、全員が同じ基準を共有することで、今後のトラブルに対して子どもたち同士で解決する力が身につく。
- 注意点: 個々の問題に具体的に触れるのではなく、一般的なルールや価値観について話し合う。
- サポートの提供
- メリット: 問題を共有することで、他の子どもたちからのサポートや理解を得やすくなる。
- 注意点: 当事者が必要とするサポートが明確にされ、他の子どもたちが適切に手助けできるようになる。
- 透明性と信頼の構築
- メリット: 問題をオープンに話し合うことで、透明性が高まり、グループ全体の信頼が深まることがある。
- 注意点: 当事者のプライバシーや感情に十分配慮し、話し合いが建設的になるよう進行する。(慣れてくれば、子どもたちが運営できる)
子どもたちがけんかから学べることを引き出すためのアプローチ
1. 一般的な教訓の引き出し
具体的な個人のプライバシーに関わる詳細を避けつつ、けんかから学べる一般的な教訓を引き出す。
- 共通のルールの重要性: 「お互いの秘密を守ることは大切です。みんなで決めたルールを守ることで、安心して過ごしましょう」
- 感情のコントロール: 「感情が高ぶったときにどうする?どんな方法があるか考えてみよう。ちなみに私は、深呼吸をする、とか、足の裏が地面にきちんとついているかに集中したりしています!」
2. ロールプレイやシミュレーション
ロールプレイやシミュレーションを通じて、子どもたちがけんかや対立を解決するスキルを実践的に学ぶ機会をつくる。
- シナリオ演習: 「例えば、こんな状況が起きたらどうしますか?」とシナリオを設定し、子どもたちに解決策を考えさせる。
- 役割交代: さまざまな立場を体験することで、他人の視点や感情を理解する力を養う。
3. グループディスカッション
個々のけんかの具体例を取り上げず、一般的な対立やコミュニケーションについて話し合いする。
- コミュニケーションの方法: 「意見が違うとき、どうやって話し合うのが良いと思いますか?」と問いかけ、みんなでアイデアを出し合う。
- 問題解決のステップ: 「けんかが起きたとき、どんな手順で解決するのが一番良いと思いますか?」と共通の解決プロセスを作成する。
4. メタ認知の促進
自分自身の行動や感情を客観的に振り返る力を養うために、メタ認知を促進する活動を取り入れる。
- 振り返りの時間: けんかや対立が収まった後、子どもたちに「何が起きたのか、どう感じたのか、次はどうしたいか」を考えてもらい共有する。
- 日記や感情の記録: 日記や感情の記録をつけることで、自分の行動を振り返り、次にどうするかを考える習慣をつける。(面倒くさいときは、感情スケールなどを活用。俯瞰してみることが大事)
5. サポートシステムの構築
子どもたちが安心して問題を共有できるサポートシステムを構築し、問題が発生した際にすぐに相談できる体制を整える。
- 信頼できる大人の存在: けんかや対立が起きたときに相談できる信頼できる大人(先生やカウンセラーなど)を明確にする。
- ピアサポート: 子どもたち同士でサポートし合うピアサポートの仕組みを導入。
まとめ
プライバシーの問題に配慮しつつ、子どもたちがけんかや対立から学べることを引き出すためには、具体的な詳細に立ち入らずに一般的な教訓やスキルを教えることが大切。ロールプレイやディスカッション、振り返りの活動を通じて、子どもたちが問題解決能力やコミュニケーションスキルを身につけられるようにサポートする。
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