野外活動中に子どもが「歯が痛い」と訴える場合、その原因と対応についして、お伝えします。まず、「齲歯(むし歯)」が原因であることが多いです。その場合は、野外活動に来る際に、「治療中なので、痛み止めを頓服で持ってきました」というケースがあります。お預かりした鎮痛剤を内服してもらいます。
しかし、治療中でもなく、急に「歯が痛い」ことも起こりえます。キャンプナースは、子どもの「痛い」というところを聴く、視る、触るを行うことが大切です。
原因
- むし歯:痛みが強い場合、虫歯が進行して神経まで達している可能性がある。子どもの歯の場合、大人に比べてエナメル質と象牙質にある歯の主成分が少なく弱いので、むし歯になると進行が早い傾向にあり、野外活動に参加して痛みを訴えることもある。
- 歯の損傷:転倒や衝撃で歯が折れたり、欠けたりしていないか確認する。歯ぎしりをすると言われたことがないか確認する。
- 歯茎の炎症:歯茎が腫れたり、炎症を起こしていないか確認する。
- 歯の生え変わり:子どもが歯の生え変わり時期にある年齢の子どもの場合、下から生えてくる永久歯に歯肉が圧迫されたり、抜けそうな乳歯の周りの歯肉が炎症を起こすことによって痛みになることがあるので、乳歯がグラグラしていないか確認する。
- 食べ物が詰まる:歯と歯の間に食べ物が詰まって痛みを感じることがあるので、歯並びや食後の口腔内のケアがちゃんとできているか確認する。
対応策
- 口をすすぐ:口を水でよくすすぎ、食べ物のかすや異物を取り除く。
- 氷で冷やす:頬の外側から氷や冷たいタオルで冷やすことで炎症を抑えることができる。ただし、直接氷を歯に当てるのは避ける。
- 痛み止めの使用:子ども用の痛み止めを医師から初歩されている場合、適量使用する。事前に保護者から預かっているものに限る。。
- 安静にする:運動や激しい活動を避け、安静にさせる。
- 早期の受診:野外活動が終わり次第、歯科受診をすすめる。
予防策
- 定期的な歯科検診:とくに、野外活動参加などのイベント前にはむし歯がないことを確認しておくことを勧める。
- 適切な歯磨き習慣:正しい歯磨き方法を習慣づける。確認が必要な子どもには口腔内を確認したり、歯を磨いている様子を確認したりする。
- 適切な食事管理:よく噛んで、ゆっくりと食事をとっているか確認する。
以上のように「歯が痛い」ことに対して、歯や口腔内の状態を十分に観察し、子どもの話を聴いたうえで適切な対応をする。そのうえで、なお「歯が痛い」の訴えがあり、全身状態や言動はいつも通りの場合は、下記について観察していくことが必要である。
精神的な要因による歯の痛み 「心因性歯痛」や「非歯原性歯痛」
- ストレス:ストレスが原因で、無意識に歯を食いしばったり、歯ぎしりをしたりすることがある。これが歯や顎の筋肉に負担をかけ、痛みを引き起こす。
- 不安や緊張:不安や緊張が続くと、身体全体が緊張状態にあり、歯や顎の筋肉が硬直し痛みを感じることがある。
- 心理的な問題:心理的な問題が身体的な症状として現れることがある。
対応策
- リラックス法の実践:リラックスできる方法を取り入れることで、筋肉の緊張を和らげる。
- ストレス管理:適切なストレス管理法を学び、ストレスを軽減するための方法を見つける。野外活動中の場合は、適度に休息をとったり静かな場所で仮眠をとったりする。
- 子どもの話を聴く:ホームシックになっていたり、子ども同士の関係性が負担になっていることもあるので、話を聴く時間を設ける。
- 医師や歯科医への相談:痛みが続く場合や原因が不明の場合は、医師や歯科医に相談。必要に応じて、児童精神科医や臨床心理士への紹介がある。
エピソード
夏の終わり、澄んだ青空の下、山々に囲まれたキャンプ場で、小学生たちが元気いっぱいに遊んでいました。私はキャンプナースとして、この野外活動に参加し、子どもたちの健康管理を担当していました。その日も特に目立った問題はなく、子どもたちは皆、笑顔で活動に取り組んでいました。
午後の自由時間、10歳の男の子、翔太くん(仮名)が私のもとに駆け寄ってきました。彼の表情は険しく「歯が痛い」と言いました。私は翔太くんの話を聴きながら、彼の歯をチェックしました。しかし、外傷や明らかなむし歯は見当たりませんでした。念のため口を水でゆすいでもらい、頬を冷やしてみましたが痛みは軽減しない様子でした。
「何か困っていることはない?」と尋ねました。翔太くんはしばらく沈黙したまま首を横に振りました。今にも泣きそうな顔と不安げな様子、「しばらく、ここに居ていい?」ときいてきたので「いいよ」と言いました。特に何を話したということもなかったのですが、翔太くんが感じている不安や緊張が伝わってきました。翔太くんにとって、歯の痛みは何かのストレスの表現だったのかもしれません。
私は翔太くんと一緒に麦茶を飲みました。「歯に染みるかな?」と訊くとまた首を横に振りました。しばらくの間、一緒に静かな場所で過ごしました。徐々に、翔太くんの表情は柔らかくなり、学校の話や妹の話をしてくれました。痛みも和らいだようでした。
その後、キャンプも終盤に差し掛かり、翔太くんは明るい笑顔で走り回っていました。親御さんが迎えに来てくれたときには、すっかり笑顔になりお母さんの服をしっかりと握りしめ「看護師さん、バイバーイ!」と手を振って帰っていきました。
精神的な要因が引き起こす身体の痛みは、見過ごされがちです。子どもたちの心のケアは大切です。しかし、何と言っても子どもには乗り越えるだけの力があります。自信をもって、これからもいろんなことに挑戦していくんだろうなと想像をめぐらせているととても嬉しい時間でした。
児玉 善子
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